大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸家庭裁判所姫路支部 昭和40年(家)538号 審判 1969年3月29日

申立人 河合清子(仮名)

相手方 河合早人(仮名) 外三名

主文

被相続人亡河合源太の別紙目録(一)ないし(五)記載の遺産を次のとおり分割する。

別紙目録(一)の1ないし3、同(二)の1ないし4、7ないし三〇、同(四)の各物件をいずれも申立人河合清子の所有とし、同(五)の債権を申立人河合清子に帰属させる。

別紙目録(三)の債権を相手方河合早人に帰属させる。

別紙目録(二)の五、六の物件をいずれも相手方河合玉代、重倉美代、同山下静子の共有とし、その持分をそれぞれ三分の一宛とする。

申立人河合清子は、相手方河合玉代、同重倉美子、同山下静子に対し各金三万三、六四三円宛を支払え。

相手方河合早人は、相手方河合玉代、同重倉美子、山下静子に対し各金四万九、八二二円宛を支払え。

鑑定人辻正一に支出した鑑定費用は、これを五分し、その一ずつを本件各当事者の負担とする。

理由

一、相続人及び法定相続分

関係戸籍謄本によれば申立人河合清子は被相続人河合源太の三女、相手方河合早人は源太の長男、相手方河合玉代は源太の長女、相手方重倉美子は源太の二女、相手方山下静子は源太の四女であり、父源太が昭和三六年一一月四日死亡したので、同日同人を被相続人として申立人及び相手方らを共同相続人とする遺産相続が開始したことが認められる。しかして申立人及び相手方らの法定相続分はそれぞれ五分の一である。なお、本件について被相続人の法律上有効な遺言はない。

二、遺産について

調査の結果によると、被相続人源太の遺産は別紙目録(一)ないし(五)に記載のとおりと認められる。遺産の範囲について問題となる点に関する当裁判所の判断は次のとおりである。

(1)  まず相手方早人は、被相続人名義の財産のうち、別紙目録(一)の居宅、宅地および目録(二)の五、六、七の山林はいずれも早人が源太から生前に贈与を受けた旨主張する。しかして証人小林きく、深須としえ、河合友子(第一、二、三回)、重倉五十次の各証言、早人本人の審問の結果は右主張に沿うものであるところ、右各証言はいずれも申立人河合静子、相手方河合玉代、重倉美子、山下静子の各審問の結果と対比してにわかに信用できないばかりでなく、源太が口頭で早人にやる旨述べたとしてもそれだけでは早人に生前贈与したものと認めるに充分なものとはいえないし、他に早人の主張を裏付けるに充分な証拠は存しないから結局早人の右主張は採るを得ない。

(2)  目録(三)の相手方早人に対する債権について

調査官の調査報告書、立木売買契約書(甲第1号証)、証人松本茂、重倉光雄の各証言、申立人の審問の結果によれば次の事実が認められる。

相手方早人は被相続人の死後間もなく遺産に属する○○○○乙○○○の○山林二町六反(目録(二)の六上の立木を山川ブローカーに不当に安い値段で売却しその手付金を受領したことがあつた。そこでその頃相続人らが集まり右の売買契約を解約させたうえ、松本茂が仲に立つて遺産の分割方法について協議した結果、早人名義の○○○○乙○○○の○山林三反を申立人のものとしその代り遺産に属する○○○○○乙○○○の○山林二町六反上の一部の立木を売却してその売却代金を早人が取得すること、他の遺産はすべて申立人のものとすること、早人は右立木の売却代金のなかから相手方玉代、同美子、静子に各金一〇万円宛支払うものとすること、とする旨の一応の話合いがまとまつた。そこで昭和三七年五月六日、早人は重倉光雄に対し○○○○乙○○○の○山林二町六反上の立木約二四三本を金一〇五万円で右一〇五万円の中には立木の売却に伴い要する諸費用五万円および相手方玉代、美子、同静子に分配すべき三〇万円の計三五万円が含まれていたが、早人は右一〇五万円を全部受領するとともに、遺産に属する別紙目録(一)の家屋、宅地、および目録(二)の五、六、七の山林全部について、源太から生前贈与を受けていた旨主張しはじめて前記遺産分割案に服さなかつた。そのため申立人はやむなく神戸家庭裁判所姫路支部に遺産分割の調停(当庁昭和三九年(家イ)第七八号)を求めるに至つた。

以上の事実が認められるところ、早人は遺産に属する立木を処分したことによつて金一〇五万円を受領したのであるからその立木に代るべき同人に対する金一〇五万円の代償請求権の存在が明白ということができるから、右の早人に対する代償請求権を遺産に準ずべきものとして遺産分割の対象とすべきである。

なお、前記遺産分割の協議は、相手方早人において協議の際充分納得していたものとは認め難く、遺産分割の協議が有効に成立していたものとは認められない。

(3)  目録(四)の倒木一〇二本について

相手方早人は、昭和四二年五月頃遺産に属する山林○○○○乙○○○の○山林二町六反、同所○○○の○山林九畝一七歩上の立木を伐採したものであるが、右立木は現在なお右山林上に存するところその倒木もまた遺産の範囲に属するというべきである。右倒木の本数および評価額については○○○森林組合作成の証明書(甲七号証)により一〇二本、金一一万八、二二八円と認められる。

(4)  目録(五)の申立人清子に対する債権について

板屋正男作成の書面(乙第1号証)によれば、昭和三六年一一月四日現在、被相続人名義の○○○農業協同組合の普通預金が金一一万六、七八三円存したことが認められる。申立人清子の審問の結果によれば右の一一万六、七八三円の金員は、源太と家計をともにしていた申立人清子夫妻が家計にも費消し、源太名義の預金としての形で現在存するものではないことが認められるが、申立人に対する右金額の代償請求権の存在が明白というべきであるからこれを遺産に準ずべきものとして遺産分割の対象とすべきものである。

なお、相手方早人は右の外源太の死亡当時少なくとも二〇万円の現金が存した筈である旨主張するが、かかる事実を確認することができない。

(5)  申立人は、

遺産に属する土地家屋についての固定資産税を昭和三〇年から昭和三六年まで金五万一、二三〇円、昭和三七年から昭和四二年一期分まで金四万四、六八〇円の合計金九万五、九一〇円を申立人において支出したこと、

国民健康保険税資産割額を昭和三〇年から昭和三六年まで金五、〇三二円、昭和三七年から昭和四一年まで金四、七七五円の合計金九、八〇七円を申立人において支出したこと、

昭和三〇年から昭和四一年までの○○区協議費金二万四、六六三円を申立人においてすべて支出したこと、

被相続人の生前にその病気療養のために要した入院費用その他の医療費合計金五万七、一一〇円を申立人において支出したこと、

遺産に属する神崎郡○○町○○字○○○乙一九三の八山林(目録(二)の六)、同郡同町○○字○○○○○○○の○○山林(目録(二)の七)について、植込、補植、下刈等の管理維持につき被相続人の生前および死後申立人において金一八万一、九七五円の費用を支出し多大の労力を提供したこと、

を主張し、これら申立人における各支出を本件審判においてその清算をなすべき旨求める。

しかし右各費用の負担については、いずれも遺産の分割とは別に定めるべきもの(あるいは、山林の維持管理に改良費を支出したことにより遺産の価額が増加したのであるならば、右の償還請求権を遺産分割の手続外で行使すべきもの)であつて、遺産分割の審判においてその清算をなずべきものではない。従つて右各費用の支出については本件審判において清算を考慮しない。

(6)  なお遺産として家財道具等の動産類が若干存するもののようであるが、調査の結果によつてもその物件、数量、価額を特定し得ないし、相手方早人の主張する相続開始当時存したという源太名義の価額一五万円ないし一六万円の年一頭についてもこれを認めるに足る資料がないから、これらをいずれも遺産の範囲から除外するの外はない。

三、特別受益について

調査の結果によれば、別紙目録(六)の宅地、建物および山林は、相手方早人が被相続人の許を離れ、農業を申立人夫婦に任せ、その現住所で○○鉱山病院のレントゲン技術員として働くようになつたため、被相続人において別世帯をもつた同人に対する財産分けとしてこれらを早人に贈与したものと認められ、従つて右各物件は相手方早人が被相続人から生計の資本として贈与を受けたものということができる。

この外、神崎郡○○町○○字○○○○○田〇畝〇一歩、同所○○の○田四畝〇二歩、同所○○の○宅地六坪がいずれも相手方早人名義の物件であるが、早人がこれら物件につき果して被けたものということができる。

この外、神崎○○町○○字○○○○○田三畝〇一歩、同所○○○の○田四畝〇二歩、同所○○○の○宅地六坪がいずれも相手方早人名義の物件であるが、早人がこれら物件につき果して被相続人から生計の資本として贈与を受けたものであるかについて、これを確認する資料が存しないからこれらを早人の特別受益分とは認めない。

また、神崎郡○○町○○字○○○○○○の○山林三反八畝二八歩は、申立人の長男河合太郎名義の物件であるが、相手方早人は右物件について被相続人が生前申立人に生計の資本として贈与したものである旨主張するところ、右は被相続人が太郎に贈与したものであること明らかであつて、これを申立人の特別受益分とみることはできない。

その他、相手方玉代、同美子、静子のなかには結婚に際して被相続人から相当額の支度を受けたものもあるように窺えるが、何人が幾何の贈与を受けたか、これを適確に知る資料は存しないから、同人らについて特別受益分はないとみる外はない。

四、相続財産および特別受益の価額と各相続人の取得額

鑑定人辻正一の鑑定の結果によると、別紙目録(一)、六(六のうち3を除く)記載の各物件の昭和四一年六月現在における価額は右目録の各物件の価額欄記載のとおりであり、別紙目録(二)記載の各物件および目録(六)の三の物件の昭和四三年七月現在における価額は、右目録の各物件の価額欄記載のとおりである。また別紙目録(四)の倒木一〇二本についての昭和四二年八月三日現在における価額は○○○森林組合作成の証明書(甲第七号証)によると一一万八、二二八円であることが認められる。

このように物件によつて価額の鑑定等の時期が異なるばかりでなく、しかも右各鑑定の時期と、現在においては価額の変動が考えられるところであるが、特段の事情の認められない本件においては、右各物件の現在の価額は上記と同一であると認めるのを相当とする。

(なお、目録(二)の番号五、同番号六および目録(六)の番号三の三筆の物件は、その境界が必ずしも明らかでないため、以上三筆の一括評価額八三六万三、〇〇〇円を公簿面積に応じてその各物件の価額を算出することとした。)

従つて現在における遺産の価額の総計は金一、一二六万八、四六三円となる。これに早人が受けた生前贈与が計金一六九万一、四四八円であるからこれを加えると金一、二九五万九、九一一円となる。そこで各相続人の法定相続分は、申立人清子、相手方玉代、美子、静子がそれぞれ12,959,911円×1/5 = 2,591,982円(円未満切捨、以下同じ)。相手方早人が金12,959,911円×1/5-169,448円 = 900,534円である。

五、分割方法

調査の結果によれば

(イ)  申立人は、被相続人源太の三女であるが、長男である相手方早人が父の農業を継がなかつたため、やむなく父の自作農をついで農業に従事することになり、昭和二七年六月二六日輝夫(大正一三年八月一日生)と妻の氏を称する婚姻をなし同人を事実上の養子として迎え、爾来輝夫とともに本件遺産である家屋に居住し、田、畑を耕作、山林を維持管理して今日に及んでいること、

しかして源太とその死亡まで同居して同人を扶養し、病気の看護にも精励してきたこと、

(ロ)  相手方早人は、源太の長男であつて、本籍地の高等小学校を卒業後国鉄に勤務、その後軍隊に入つたが、戦後郷里に引揚げしばらく農業に従事したものの妻子を亡くし、昭和二六年二月一九日、現在の妻好子と婚姻して後農業を嫌つて現住所に移り、○○鉱山病院のレントゲン技術員として勤務していること、

(ハ)  相手方玉代、同美子、同静子は源太の長女、二女、四女であつて、美子は申立人と同じ村で夫健助とと共に農業に従事し、玉代は神戸市、静子は明石市に居住しているが、三名とも本件遺産分割については申立人の主張を支持し、早人の主張に対し一致して強い反感を示していること、

本件遺産分割の審判の当初には、三名とも遺産の分割を受けた後申立人に贈与したい旨述べていたが、時日を重ねるに従つて遺産の分割を受けたうえでの処分は自由な意思でしたい旨述べるものもあること、

(ニ)  遺産のうち神崎郡○○町○○字○○○乙○○○の○、同所○○○の○の山林二筆は、本件遺産のうち最も高い評価額を示す物件であるが、右二筆と被相続人源太が生前に相手方早人に贈与した同所○○○の○の山林一筆とはその境界が明らかでなく(字限図にも誤りがあるとみられる。)且つ右遺産を分割したうえ各相続人の相続分に応じて取得させる方法をとることは極めて困難であること、

他面、相続人のうちの一名に右遺産を取得させ、他の相続人に対し金銭債務を負担させる方法をとることも金銭債務を負担する資力を有する者が相続人のなかにいないため困難であること、

以上の事実を認めることができる。

以上認定の事実関係その他本件調停および審判に現れた諸般の事情を考慮すると、別紙目録(一)の1の家屋二、三の宅地、目録(二)のうち五、六の山林を除く山林、田、畑全部、目録(四)の倒木を申立人清子に取得させるとともに、目録(五)の債権を申立人清子に帰属させることとし、目録(三)の早人に対する債権を相手方早人自身に帰属させることとし、別紙目録(二)の五、六の山林二筆をいずれも相手方玉代、同美子、静子の持分各1/3の共有取得すべきものとしたうえ、各相続人のうち前記相続分を超えて取得した者をして他の相続人に対し金銭債務を負担させるのが相当である。そうすると、申立人清子は二六九万二、九一一円を取得し、2,692,911円-2,591,982円 = 100,929円超過するので、相手方玉代、同美子、同静子に対しそれぞれ100,929円×1/3 = 33,643円宛を支払う義務を負担させ、相手方早人は、1,050,000円ー900534円 = 149,466円を超過して取得したので、相手方玉代、同美子、同静子に対しそれぞれ149,466円×1/3 = 49,822円宛支払う義務を負担させるべきである。

なお、家事審判法七条、非訟事件手続法二七条を適用して審判費用中、鑑定人辻正一に支払つた鑑定手数料を五分し申立人および相手方に各一宛を負担すべきものとする。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 亀岡幹雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例